対訳「7つの歌」

Wilhelmine Wickenburg-Almásy
ヴィルヘルミーネ・ヴィッケンブルク=アルマシー伯爵夫人(詩人)

ドラ・ペヤチェヴィッチ作曲の歌曲「7つの歌」の歌詞になっている、ヴィルヘルミーネ・ヴィッケンブルク=アルマシー伯爵夫人の詩の対訳です。

原詞日本語訳またはこちらの訳でも可
1. Sicheres Merkmal1. 確かな印
Ich blickte hinaus zum Fensterlein私は小さな窓から外を見ていた私は小さな窓から
Beim Morgensonnenstrahl,朝の陽射しの中、朝の光を浴びる外を見ていた。普通は unter Morgensonnenstrahl のところ、beim なので、部屋の中には光は入っていない。この行の最後に「,」があるが、むしろ次の行と繋がっているとも取れる。
Da sah durch die Scheiben die Liebe herein窓ガラス越しに 愛が中を覗き込んだそこへ窓ガラスを通して 愛が中を覗き込んだsah の主語は die Liebe
Zum allererstenmal!初めての事だった!
Den lächelnden Blick so warm und weich,微笑みを湛えた こんなにも暖かく柔らかい眼差しを、
Ich sah ihn noch nie vorher,私はこれまでに見た事がなかった、私はこれまで見た事がなかった、ihn は Blick「眼差し」であり、Liebe「愛」のもの
Und doch -- wie kam's? -- ich wußt' es gleich,それでも -- どうしてかしら?-- すぐにわかったの、それでも -- どうしてだろう?-- 私にはすぐにわかった、
Daß es die Liebe wär!それが愛だと!
Doch ließ ich noch eine kleine Fristそれでもまだ少しの間
Geschlossen das Fensterlein.私はその小さな窓を 閉ざしたままにしていた。
Ich wußte, wenn es die Liebe ist,もしそれが愛なら、この行の直訳は「私は知っていたから - もしそれが愛なら、」
So schlägt sie die Scheiben ein!窓を破って入って来ると知っていたから!窓を破って入って来ると、私は知っていたから!この行の直訳は「窓を破って入って来ると!」
2. Es hat gleich einem Diebe2. それは泥棒のように
Es hat gleich einem Diebeそれは泥棒のように
Ins Herz mir für und für私の心の中に少しずつ私の心の中にfür und für は古い言い回しであり、辞書には「ひきつづき、ずっと」とあるが、現代表現の mehr und mehr にあたり、「だんだんと」。
Sich eingeschlichen die Liebe愛は忍び込み愛は少しずつ忍び込み(「少しずつ」は「だんだんと」でも可)
Und still geschlossen die Tür.そして静かに戸を閉めた。そして静かに扉を閉めた。
Doch will sie mit ängstlichem Sorgenけれどそれは不安からくる気遣いでけれどそれは不安からくる気遣いによってängstlich と Sorge はかなり近い意味 ängstlich 不安(心配)そうな、びくびく(おどおど)した、臆病な、気の弱い、例)mit ängstlicher Genauigkeit きわめて綿密に 
Gehütet sein und versteckt守られ、隠されるf. Sorgen心配事、気がかり、懸念、不安、憂慮、関心 <単数Sorgeで>配慮、世話、保護
Und vor den Menschen verborgen,そして人々には秘密の、
Wo keiner sie entdeckt.誰も見付けられないところに。
Ich darf nicht an Feiertagen私はお祝いの日に
Zum hellen festlichen Kleid晴れ着を着てはいけないし、華やかな服を|着るわけにはいかないし直訳「明るい服を着ることは許されないし」
Vor aller Augen sie tragen,みんなの眼がそこに注がれる中で全ての瞳が|そこに注がれてしまうから、sie「そこ」は「愛」を指す。ここの vor は英語で言う infront of であって before (時間軸で言う「前」)ではない
Am Hals ein gold'nes Geschmeid.首に金のネックレスも許されない首に金のネックレスもしてはいけないさらに「金のネックレス」が「愛」の隠喩でもあるという
Nein, unterm Mieder drinnenいいえ、コルセットの下で
Und tiefer noch in der Brustそしてもっと胸の奥深くで
Muß ich verbergen mein Minnen私の美しい愛を隠しておかなければMinneは「奉仕愛」
Und seine Qual und Lust.そしてその苦しみと欲望も。Lustには「喜び」の意味もある。
Doch auf den Wangen glüht esそれでも頬は赤くなり
Und zuckt um die Lippen leis,唇がかすかに震える、
Und aus den Augen sprüht esそして目はきらきらと輝くそして目はきらきらと輝いてしまう
Dem Einen, der es weiß!それを知っている1人の者から!愛を知っている1人の者から!
3. Taut erst Blauveilchen3. 雪解けの最初の青すみれ
Taut erst Blauveilchen aus dem Schnee,最初の青すみれが雪から解け、
Dann zog ins Land der März,それから3月がこの土地にやってきて、
Empfindet's doppelt Lust und Weh,それは期待と悩みを膨らませ、そのことは|期待と痛みを|倍増し、
Dann zog die Lieb' ins Herz.そして愛を心の中にもたらす。
Schwankt an dem Strauch der Rosen Zier,薔薇の飾りが茂みに揺れ、薔薇が飾りのようになっているということ。
Dann glüht die Sommerzeit,そして真夏の盛りとなる、
Es brachte keiner noch, gleich dir,あなたのような人はまだ誰もいない、この行の直訳は「まだ誰もいない、」
Mir solche Seligkeit.私にこんなにも至福をもたらした人は。この行の直訳は「あなたのように私にこんなにも至福をもたらした人は。」
Reift im Geheg die blaue Schleh',囲いの中で青いスローベリーが熟し、
Dann kam der Herbst heran,そして秋がやって来た、
Es hat mir keiner noch so weh,まだこんなにも私を傷つけた人はいない、まだ私をこんなにも傷つけた人はいない、
So weh wie du getan.あなたがしたほどに。
4. Es jagen sich Mond und Sonne4. 月と太陽の追いかけっこ
Es jagen sich Mond und Sonne月と太陽が追いかけ合う
Und holen sich niemals ein,そして絶対に追いつかない
Du bist meines Lebens Wonneあなたは私の人生の喜びWonne = 歓喜
Und wirst doch ewig nicht mein.そしてしかし永遠に私のものにならないでも永遠に私のものにならない
Es löschen die Sonnenstrahlen太陽の光が
Das silberne Mondenlicht,銀色の月の光を消し、弱い月の光=自分
In zitternden Liebesqualenふるえる愛の苦しみの中で
Verbleicht mir das Gesicht.私の顔は青ざめる。
Doch wird mein Herz auch nimmerけれど私の心ももはや
Von seinen Wunden heil,その傷から癒えることはない、
Um keiner Freude Schimmer喜びのわずかな光とも喜びのわずかな光と引き換えにm. Schimmerかそけき光、一抹の希望、淡い光、ほのかな光
Ist mir mein Leiden feil.私の苦悩は引き換えない。私の(愛の)苦悩は手放さない。|私の苦悩は引き換えられることはない。自分は、愛の痛みが好き、手放さないということ
私の苦悩は引き換えはしない|私の苦悩は引き換えることはしない
Und legte all' seine Sterneそして天がその全ての星を
Der Himmel zu Füßen mir,私の足元に並べてくれたとしても、
Ich blies' sie zurück in die Ferne私はそれを遠くへ吹き返し
Und sehnte mich lieber nach dir.そしてむしろあなたに憧れる。
5. Du bist der helle Fruehringsmorgen5. あなたは明るい春の朝
Du bist der helle Frühlingsmorgen,あなたは明るい春の朝、
Der Leben schenkt mit seiner Huld.その慈しみで命を与えてくれる。
Ich bin die Blume still verborgen私はひっそり隠れた花
Und harre deiner in Geduld.そして辛抱強くあなたを待ちこがれる。
Ich zittre sehnend dir entgegen私はあなたを思い焦がれてふるえる
In dumpfer Qual, in stillem Leid,どんよりした苦痛の中で、よどんだ苦しみの中で。
Bis du mit deiner Liebe Segenあなたが愛の祝福で
Es wandeln willst in Seligkeit.それを至福に変えるまで。痛みを|幸福に変えるまで。
Und wie mit strömenden Gewaltenそしてほとばしる力でもってそして力尽くでGewalten は権力のような強い力
Der Frühling kommt zu seiner Zeit,春は来たい時にやってくる、春は勝手な時にやってくるわがままなときにやってくるという意味
So magst du als mein Schicksal walten,そのようにあなたは私の運命を支配したいでしょう、
Komm wann du willst, ich bin bereit.その時は来てください、私は準備ができています。
6. In den Blaettern wuehlt6. 木々の葉の間が掻き回されて
In den Blättern, wühlt in dem Walde spielt Sommerwind!夏の風が木々の葉の間を掻き回し、森の中を戯れる!
Und er lacht dazu nach der Morgenruhそして朝の静けさの後で笑う
Wie ein lustig Kind!楽しそうな子供のように!
Aber später dann, wenn der Frost im Tannけれども後に、霜がもみの木の中を
Durch die Zweige schoß,枝の間から射抜くと、
Ist kein Blatt mehr fest, und im Laubgeästしっかりついている葉はもはやなく、そして枝葉の中では
Ist der Schrecken los!恐怖が始まる!
In der Frühlingszeit war das Herzeleid春の間の傷心は
Mir ein Kinderspiel,私には簡単なことだった、私には容易いことだった、Kinderspiel は英語で言う piece of cake
Nun erzittert matt mir das Herz,今私の心は力なく震え、
Ein Blatt am erfrorenen Stiel!凍った枝先に付く1枚の葉のようだ!Stiel は「茎」と辞書にあるが、先のほうの細い枝も指す
7. Es war einmal7. むかしむかし
"Es war einmal", so spricht die Märchenfrau,「昔々あるところに」、とお婆さんは話し出す、
Und aus vergang'ner Zeiten Dämmergrauそして過ぎ去った時代の暁闇からDämmer は、夜明けと夕方とどちらも指す
Reicht sie der Kinderschar金の宝物を黄金の宝物をこの行の直訳は「子供たちに差し出す」
Die gold'nen Schätze dar.子供たちに差し出す。この行の直訳は「黄金の宝物を。」
Auch ich erzähl' in trüber Einsamkeit私ももやもやとした孤独の中で私ももやもやした孤独の中で/私も濁った孤独の中でtrüber は透明でない、濁ったという意味(例:透明でないほうのリンゴジュースなど)
Mir schöne Mären aus vergangner Zeit過ぎた日の美しい話を自分に語りかける
Und sprech in Sehnsuchtsqual ganz leis:そして憧れの苦悩の中でそっと話す:
"Es war einmal."「昔々あるところに。」
Es war einmal und wird nicht wieder sein.それはかつてのことでもう一度はない。
O Lust und Kraft, o Sang und Sonnenschein,おお 喜びと力、おお 歌と太陽の光、
Ihr winkt von ferne her,それらが遠くからこちらへ手を振っている、
Ein Märchen und nicht mehr.昔のお話で今はもうない。この行は「ただのおとぎ話で、それ以上ではない。」という意味にもとれるが、ドイツ語の Märchen (おとぎ話、メルヘン)と言った場合、史実と作り話の境ははっきりはしていない。
©︎長谷川ゆき